今回は「ストレングス」についてのお話です。
この言葉、聞いたことはありますか?
最近ではビジネス書や自己啓発本などにもちらほら見受けられる言葉かと思います。
ストレングスの視点を高齢者ケアに取り入れることで、高齢者自身だけではなく、関わるスタッフもHappyになります。
ストレングスとは何か、基本的なことからお話していきますので、最後までお付き合いくださいね。
ストレングスとは何か?
ストレングスとは、元々は精神障害者の支援で用いられていた概念です。簡単に言うと、「できないこと(弱さ)」に着目をするのではなく「できること(強さ)」に着目をしようという考え方です。
福祉の業界ではもうだいぶ浸透している概念なのかな?と思いますが、医療・看護の業界ではまだまだな気がします。
実際、看護のテキストでストレングスの概念を章立てして取り扱っているものに出会ったことがありません。。。
私は大学生の頃(約10年前)に老年看護学の講義で初めて耳にしました。
ストレングスは以下の3つの側面から捉えることができます。
ストレングスの3つの側面
①身体的側面:能力(〜ができる体力)
②精神的側面:意欲(〜しようという気持ち)、願望(〜したいという気持ち)
③社会的側面:環境(〜してくれる人がいる)、資産(貯蓄、年金など)
このような側面に着目して、高齢者を捉えるとすごくできることが多いことに気づきます。
例えば、「左半身麻痺がある」と捉えるのではなく「健康な右半身がある」と捉えることで、支援の方向性として「左半身麻痺があるので〜の介助が必要」と表現するのではなく、「右半身の能力を活用して〜する」というような前向きな支援の方向性ができます。
つまり、高齢者を「治療の対象」として捉えるのではなく、「自律した生活者」として捉える視点ですね。
ストレングスモデルと医学モデル
高齢者を「治療の対象」として捉えることを「医学モデル」としての捉え方とし、また、「自律した生活者」として捉える視点を「ストレングスモデル」の捉え方として以下にその違いを説明します。
どうでしょうか?病院ではまだまだ医学モデルの捉え方に偏っているのではないでしょうか?
これはどちらが正しいとかそういう問題ではなく、バランスの問題かと思います。特に病院ではやっぱり緊急で治療が必要な場合もありますので、そんな時にストレングスモデルに偏りすぎては医療として成り立たないかと思います。状況に合わせてバランスよく、それぞれのモデルを活用するという視点が現実的なのかなと思います。
ストレングスモデルの活用事例
では、実際にストレングスの視点で高齢者を捉えアセスメントしたことで、ケアがうまくいった事例を紹介します。
事例概要は以下の通りです。
Aさん、85歳女性、アルツハイマー型認知症
Aさんは施設に入所していましたが、ここ数日落ち着かずBPSD(行動心理症状)が強くなってきたため、認知症治療病棟に入院となりました。入院後もやはり落ち着かず、あちこち歩いたり、大声を出したりしてスタッフが常時一人付き添い対応していました。平日はどうにか対応できるのですが、スタッフの数が少ない休日は対応が難しく、スタッフも頭を悩ませていました。
Aさんの対応に困っていたスタッフは、当初Aさんのアセスメントとして「認知症のため指示が入らず、何度注意しても落ち着かず歩き回っている」としていました。その対応も「転倒予防のため常時一人付き添いをする」としていました。
そこで、まず、スタッフへストレングスの視点について勉強会を行い、その後、Aさんをストレングスの視点で再度アセスメントし直してみてはどうかと提案しました。
その後、スタッフのAさんを見る視点が変わり、Aさんが普段着用している洋服が手縫いであることに気づき、Aさんとの会話から「手先が器用で裁縫が得意」という情報をキャッチしました。そこで、Aさんへ、日中の活動として手先を使った作業を提案したのです。
すると、Aさんは椅子に座り、作業を集中して行うようになりました。スタッフもそれによって仕事にゆとりを持つことができ、また、何よりAさんに対する見方が変わって接し方にも変化が見られるようになりました。
「歩き回る困った患者さん」(医学モデル)から「手先が器用なAさん」(ストレングスモデル)という捉え方に変化したのです。
このように、ストレングスの視点で対象を捉えることで、こちら側(援助者)の見方が変化し、ケアが変化することで相手も変化していくのです。
これは何も看護の場面だけではないかと思います。日常生活においても、「相手を変えよう」と思っても相手は変わらないですよね。こちらが相手に対する見方をかえ、態度を変えることで相手にも少しずつ変化が見られるのではないでしょうか。
特に、高齢者は何もできない人と見られる傾向があります。しかし、高齢者には長年培ってきた「知恵」があります。その「知恵」を活用して、なんとか生活を継続している方が多くいます。その中にあるストレングスを私たちはできる限り引き出し、入院生活においてもそのストレングスを活用してケアを提供することが望ましいと思います。
また、入院すると高齢者はついつい受け身になり、高齢者自身も「自分は何もできない」「お世話になります」という態度になりがちです。そこを私たち看護師が「〇〇さんは〜ができるんですね」「〇〇さんは〜したいのですね」などと、意識的に声かけすることで主体性も引き出していくことが必要かもしれません。
今回はストレングスの視点のポイントだけをご紹介しました。
ストレングスの視点、ぜひ現場で取り入れてみてほしいなと思います。
ストレングスについてもっと学びたい方は、以下の本を参考にして見てくださいね。
ではまた♡
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