認知症における予防の視点〜入院中にできるケア〜

認知症ケア

今回は「認知症ケア」についてのお話です。

認知症の人の人口は年々増え続け、2020年の65歳以上の高齢者の認知症有病率は16.7%、約602万人となっています。

つまり6人に1人が認知症有病者といえます。(統計データ引用

必然的に、病院に入院してくる患者さんに占める認知症有病率も増加の傾向を辿ることが予測されます。

タイトルには「予防」という言葉がありますが、ここでいう「予防」とは、認知症を予防するというわけではありません。

すでに認知症になっている方が、入院によって症状が悪化しないようにという意味で使用しています。

では具体的に解説していきます。

今回使用したテキストは、日本看護協会出版会から刊行されている「認知症plusシリーズ」の一つ、「認知症plus身体疾患」です。

認知症における3段階の予防

みなさん、医療における予防として、一次予防、二次予防、三次予防の3段階があることはご存知ですよね?

それと同様に、認知症の施策である「認知症施策推進大綱」でも、一次予防、二次予防、三次予防が示されています。

高山成子他,認知症plus身体疾患,p3,日本看護協会出版会,2020.

入院している患者さんは、既に身体疾患も患っており、その治療のために入院しています。

つまり「認知症」と「身体疾患」の二つのケアについて三次予防の視点が求められています。

新オレンジプラン、認知症施策推進大綱においては「身体合併症等への対応を行う急性期病院では、身体合併症への早期対応と認知症への適切なバランスのとれた対応が求められている。」と述べられています。

認知症の三次予防

少し古いデータですが、平成28年度入院医療調査の結果、以下のことがわかっています。

・身体疾患の悪化で入院している患者のうち、認知症のある人は、一般病棟で約20%、療養病棟では約60%である。
・入院日数は、認知症の人は認知症がない人の約2倍と長く、在宅復帰率は30%低かった。

現場の感覚としては、一般病棟では現在はもう少し認知症の割合が多い気がします。

認知症の人の入院期間が長く、在宅復帰率が低いのはみなさんもイメージがつくのではないでしょうか?

入院してBPSD(行動・心理症状)が発生し、身体疾患の治療が終わっても帰れる状況ではなくなり、退院先も当初は自宅の予定だった患者さんでも、BPSDを見てしまった家族は「これでは家では見られない」と言って施設を探し始める・・・。

このような現状が多くの病院において起こっていると推察します。

ちなみに、この入院中のBPSDが発生する要因として最も多いのは、「薬剤」37.7%で、次いで「身体合併症」23.0%という調査結果が出ています。

これらのことから、入院中における三次予防の視点として大切なことは、「薬剤の適正使用」と「身体状態の悪化の早期発見と対応」であると考えられます。

最近では高齢者のポリファーマシー(多剤併用)が問題となっているように、入院してくる患者さんの中には非常に多くの薬剤を飲んでいる場合があります。入院してきたら必ず、薬剤を整理し、「本当に今必要なのか?」を見直すことが重要です。

この時に、処方された薬剤がきちんと飲めていたかの確認は特に重要です。今まできちんと飲めていなかったのに、入院してきたことで看護師管理になり、きちんと投薬されたがために副作用が出てしまうというケースも稀にあるからです。

入院時の薬に関しては、薬剤師が関わることが多いかと思いますが、連携して看護師もきちんと把握しておきたいですね。

身体状態の悪化について、「いつもと何か違う」という看護師の感はおおよそ間違っていないという研究データがあります。

些細な変化でもキャッチしたら必ずアセスメントをし、対応を早めにしていくことで身体状態の悪化を防ぎ、BPSDの発症の予防につながります。

以上のことから、認知症の三次予防において、看護師が果たすべき役割はすごく大きいことがわかります。

入院当初の混乱や不安に寄り添う

三次予防の視点のポイントとして最も大切なことは、入院当初の関わり方だと思います。

認知症の人は入院してくると、「帰る」と言って落ち着かなくなったり、「私の部屋はどこ?」と言ってあちこち行こうとしたりする行動を見せることがあります。

自分の居場所の確認をするということは、今いる場所が「不安」だからです。認知症がない人であれば、治療のために入院していることがわかるので、場所が変わっても多少の不安はありつつもうまく適応していきます。

しかし、認知機能が低下している認知症の人は、適応に時間がかかります。安心感を与えるために、何度も繰り返し同じ質問に丁寧に対応していくことが必要となります。

あとは、きちんと本人の居場所はここであり、何か困ったことがあれば私たちがお手伝いしますということを伝えることはとても重要です。

実際にあった事例では、入院してきてずっと車椅子であちこちの病棟に行ったりきたりしている患者さんがいました。その方にお会いした時に、「何か探していますか?」と確認すると、「トイレ」と答えました。そしてトイレに行ったあと、排泄をするのではなく、自分のベッドを探し始めました。「お部屋はここですよ」と案内すると、「これ(車椅子)はここ(ベッドサイド)に置いておいてね。トイレ行く時に必要だから」と言って、その後は安心したようにベッドで横になりました。

この方は施設から入院された方で、施設では車椅子をベッドの横に置き、自分で起きてトイレへ行っていたとのことでした。車椅子であちこち動き回っていたのは、入院して環境が変わったので、いつものように排泄できる環境を整えようとしていたのです。

他にも、入院後、落ち着かない患者さんに対し、お部屋の名前を一緒に確認し、ベッドの場所を確認して、ベッドや点滴にその方のお名前を大きく書いて貼ると「あぁ、○○って書いてあるね。私はここで寝ていいんだね。」と安心されたという事例もあります。

私たちも、知らない場所に行った時に、とりあえず寝る場所を確保すると安心するということがありませんか?

そう考えると、認知症の人のケアも突き詰めると「認知症のケア」ではなく「人としての関わり」であることがわかると思います。


今回は、「認知症plus身体疾患」の「序章」の部分を読んで勉強したことと、実際の自分の体験から考えたことを整理してみました。

この本は具体的に、認知症高齢者への倫理的視点や、疾患別の認知症高齢者の看護についても書かれていますので、気になる方は参考にしてください。

あと、今回は政策の話も少し盛り込んだので、厚生労働省のホームページをリンク付けしている箇所がいくつかあります。

このようなホームページを時々のぞいてみるのも、世の中の動きがわかって勉強になりますよ^^

ではまた明日♡

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