認知症ケア:パーソン・センタード・ケアってなに?

認知症ケア

今回は認知症ケアの考え方の一つである、「パーソン・センタード・ケア」についてお話しします。

認知症のケアについては、みなさん日々頭を悩ませているのではないでしょうか?

その悩みの根本は「対象アセスメントの視点」がわからないのだと思います。

これまで、関わり方として「技術としてのやさしさ」などのお話をしてきましたが、実際にそれを身につけている人は多くいると思います。問題はその次の段階。どのような視点で認知症の人をアセスメントしていったらいいのか?ということです。

アセスメントができれば、ケアの方法は自ずと出てくると思います。それもみなさん一人一人の感性が現れた、具体的な方法として。

是非、対象アセスメントの視点を学んで、明日からのケアに活かして欲しいなと思います。

パーソン・センタード・ケアの4要素「VIPS」

パーソン・センタード・ケアとは、心理学の教授である故トム・キットウッドによって提唱された、世界的にも知られている認知症ケアの1つの考え方です。日本において、パーソン・センタード・ケアに関する著書を手がけている鈴木みずえは以下のように述べています。

年齢や健康状態にかかわらず、すべての人々に価値があることを認め尊重し、一人ひとりの個性に応じた取り組みを行い、認知症の人を重視し、人間関係の重要性を重視したケアのことである。

鈴木みずえ,酒井郁子編,パーソン・センタード・ケアでひらく認知症看護の扉,p8,南江堂,2018.

そして、キットウッドが亡くなった後、その意思を受け継いだドーン・ブルッカーによって以下の4つの要素が示されました。

パーソン・センタード・ケアの4要素
=V(valuing people):人々の価値を認める
+ I (individualized care):個人の独自性を尊重する
+P (personal perspective):その人の視点に立つ
+S (social environment):相互に支えあう社会的環境を提供する

パーソン・センタード・ケアが成り立つためにはVIPSすべての要素が不可欠であると言われています。

私たちは、「その人に対して敬意を払い、価値を認め、尊敬の念を抱いていることを表現しているか(V)」、「その人を独自の個人として扱っているか( I )」、「その人の視点に立って、自分の行動を真剣に振り返っているか(P)」、「大切にしている活動に参加できるよう確認しているか(S)」と常に考えながらケアすることが求められています。

実際の問題として、これらのケアを提供するには、特に急性期病院の場合は難しいと言われているそうですが、パーソン・センタード・ケアの考え方に基づいたケアバンドルという手法を導入し、転倒や感染症が減少したという報告もあるそうです。

このような考え方を組織全体として導入することが理想ですが、まずは私たち一人一人が意識して日々関わることも大事だと思います。

パーソン・センタード・ケアの基盤となるパーソンフッド

もう一つ大事なキーワードとして「パーソンフッド」というものがあります。

パーソンフッドとは
一人の人として受け入れられ、尊重されること、一人の人として周囲の人や社会との関わりをもち、受け入れられ、尊重され、それを実感している、その人のありさまを示す。人として、相手の気持ちを大事にし、尊重しあうこと、お互いに思いやり、寄り添い、信頼しあう、相互関係を含む概念である。

簡単に言えば、認知症高齢者が一人の人として受け入れられ、尊重され本人がそれを実感していることが大切ということです。

「私はここにいてもいいのだ」という感覚を持てることがとても大切です。その基本はやはり「共にいる」ということかなと思います。

パーソン・センタード・モデル

パーソン・センタード・モデルは、パーソン・センタード・ケアの実践を目指し、具体的なケアプランを立案するためのアセスメントモデルです。

認知症のパーソン・センタード・モデル
=脳の障害(NI:Neurological Impairment)
+身体の健康状態(H:Health)
+生活歴(B:Biography)
+性格傾向(P:Personality)
+社会心理(SP:Social Psychology)

ケアプランを検討するために、この5つの要素でアセスメントを行います。

大事な部分なので事例を用いて説明していきますね。

*事例*
Aさん85歳女性。アルツハイマー型認知症。発熱精査で入院となりました。
入院してきてからAさんは毎日落ち着きがなく、病棟ないを歩こうとするが、転倒のリスクが高く見守りが必要な状態です。
日中はどうにか対応できるのですが、夜間このような状態になるとスタッフも対応できず車椅子に座ってもらい安全帯を使用していました。
しかし、安全帯を使用すると余計に興奮してしまい、スタッフは対応に困っています。

このような場面、よくあるのではないでしょうか?

この事例についてアセスメントしてみましょう。

▪️脳の障害:アルツハイマー型認知症で記憶障害が著しい。

▪️身体の健康状態:入院前のADLはほぼ自立しているため、歩行能力はあるが、発熱のため現在はふらつきが見られる。

▪️生活歴:長年、畑仕事をしながら主婦としても家庭を支えてきた。また地域の行事にも積極的に参加していた。

▪️性格傾向:面倒見がよく、人のお世話をすることが好きである。

▪️社会心理:人の世話をすることはあっても、人に世話をされることがこれまでなかったので戸惑っている。また、自己効力感が低下している状態である。

いかがでしょうか?このように整理してみると少しずつAさんという「人」が見えてくるのではないでしょうか?

大事なことは「認知症のAさん」と捉えるのではなく「Aさんは認知症を抱えている」と捉えることです。認知症を主体としてみるのではなく、主体はあくまでもAさんという「人」です。




パーソン・センタード・ケアについて少し理解できましたか?

私が働いている病院でもまだパーソン・センタード・ケアは取り入れられていません。

しかし、まずは私が実践を積み重ね、成功?事例を増やしながら少しずつ取り組んでいきたいと考えています。

自分ができることから少しずつ。

ではまた明日♡

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