今回は、読んでいて気持ちが温かくなる1冊を紹介します。
日本看護協会出版会から出版されている「Gift 物語るケア」(井部俊子編)です。
この本は、「いいね♡看護研究会」という研究会の活動から生まれたそうです。
この研究会は「事例から学ぶ仕組みを作ろう」というコンセプトのもとに発足したそうです。
たくさんの事例が紹介されていて、その事例から学んだことが述べられています。
実際の患者さんの写真も載せられていて読んでいてジーンときます。
この本の中で印象に残った言葉を紹介しながら、私の感想を述べていきたいと思います。
「あなたの大切なことは何ですか」から始まるケア
がん末期の徹さんは、入院中も1人暮らしの自宅で飼っているたくさんの金魚の様子を案じていた。看護師たちは、金魚に会えるよう在宅療養の準備を整える。退院後、枕元に置かれた「大切な家族」を愛おしそうに見つめつつ数日を暮らして、亡くなった。
井部俊子編,Gift-物語るケア,p34,日本看護協会出版会,2019.
この事例のように、入院してきた患者さんにはそれまでの生活があります。その中で大切にしてきたものが何か?それは入院することによってどうなるのか?という視点を持つことの大切さが語られていました。
実際に、私が経験した事例でも同じようなことがありました。
病状的に簡単に外出できるような状態ではなかった患者さんが、「明日1日でいいから外出させてくれ」と頼んできたのです。
その頃の私はまだ看護師3年目。心の中で「えっ?無理だと思うけど・・・・」と思いつつも、「何かしたいことがあるんですか?」と尋ねました。すると「町内会の役員をしていて、その引き継ぎをしないまま入院になったから、それが気になって。明日ちゃんと引き継ぎをしておきたい」という理由でした。
私は主治医へそれを伝え、幸い主治医の理解もあって外出をし、患者さんは無事に心に引っかかっていた引き継ぎを終えることができました。
残念なことに、この出来事を体験した当時、私はこのことについて何も感じていなかったので、その後の患者さんの気持ちなどを聞いてはいません。きっと、ものすごくいろいろなことを考えて日々入院生活を送っていたんだろうなと思います。
あれから私もたくさんのことを学び、いろいろな経験を重ねてきた今だからこそできるケアがあると思います。
今後は、関わる患者さんが「大切にしているもの」を、「入院してもずっと大切にし続けることができる」ようなケアを提供していきたいなと思います。
ただ患者さんのそばで座っていることも看護
ベッドサイドで患者や家族の話を聞くこと、時にはただそばに座っていることを看護とは考えにくいのではないだろうか。患者のからだを拭くなど、何か直接的に手をかけることをするのがケアだと捉えていて、それで「私は今日このひとに看護をした」と、思い込んでいる節がある。
井部俊子編,Gift-物語るケア,p45,日本看護協会出版会,2019.
「ただそばにいること」については過去記事にも書きましたが、この本にも同じようなことが書かれていました。
ただ、編者はこの文章の冒頭に「今の若い看護師は・・・」と書いていましたが、私は若い看護師に限ったことではないと思っているので、その文言は書かずに引用しました。
病院では「ただそばにいる」という行為がしづらい状況であることはよく分かります。私は新人の頃、患者さんの話を聴きすぎて周りのペースに合わせることができず、師長から「もう少し周りとペース合わせることができるといいね」と言われたことがあります。
でも師長が言っていることもわかります。チームでケアをしている以上、足並みを揃えることも大事です。
私は今は病棟配属ではないので、あまり時間や周りのペースを気にせず、患者さんと接することができるのですが、それでも1人の患者さんに時間をかけすぎていては仕事として回りません。
でも患者さんもそれはわかっています。「看護師さんは忙しい」と(笑)。
だから時間が来たら正直に「すみません。もっと話していたいのですが、今日は他の患者さんのところにも行かないといけなくて」などと理由を話せばわかってくれます。
病棟でも少し時間が空いたときってありますよね?その時に3分でもいいから患者さんのそばに行って「体調どうですか?」と話しを聴いてみることから始めてみるといいと思います。毎日、全員にやらなくてもいいんです。
私が経験した患者さんで、「おーいおーい」とずっと大声で呼んでいる患者さんがいました。
その方に毎日声をかけ、数分間そばにいると、ある時「あんたずっとここにいていいの?」と患者さんが言ったのです。
笑ってしまいましたが、きっと毎日来てくれる誰かがいてくれたことに満足した瞬間だったのだと思います。
こんなふうに、昨日もお伝えした「先回りのケア」で「ただそばにいる」ということを続けてみると、患者さんや自分自身に変化が見られると思います。
病室に入院前の生活がわかる写真を飾る
もし崇さん(事例)が病院にいたら、パジャマ姿でベッドに横になっていて、リハビリのときには車いすに乗って行くという姿だろう。病院の看護師はそんな入院患者の姿を見慣れてしまっていて、患者の退院後の日常生活を想像できないのではないか。
井部俊子編,Gift-物語るケア,p56,日本看護協会出版会,2019.
編者が述べるように、私たちはついつい目の前の患者さんが、入院前は一人の「生活者」であったことを忘れてしまいます。
「生活者」だった患者さんも病院に来たら「患者」として役割を演じるかのように、生活感がなくなってしまいます。
入院前の患者さんの生活を知ることの大切さは、みなさんも知っていて、実際に聴き取りもしているかと思います。
そこに、写真を見るということも加えてみてもいいかもしれませんね。
高齢者でも携帯を持っている人が増えてきたので、携帯で見せてもらうのもいいかもしれませんが、持っていない場合は家族に入院前の写真を持ってきてもらえますか?とお願いするといいと思います。
ベッドサイドに写真があったら、それを見て視覚的にその人の生活をイメージすることができるし、その写真をきっかけに話題が広がると思います。
患者さん本人にとっても、写真を見ることで退院して元の生活に戻ることを目標にすることができると思います。
この本には他にも「多職種連携」「身体拘束」「訪問看護」など、色々なテーマを持った事例と学びが紹介されていますのでぜひ読んでみてください。
一つの事例を読んだだけでも、じわーっと心が温かくなります。
日々の仕事で疲れてしまっているときは、こんな本を読むのもいいと思います。
「やっぱり看護って素敵な仕事!」と思えます。
ではまた明日♡
コメント
最近、ベッドサイドに患者さんの入院前の写真が飾られてる部署がありました。大きな魚を釣った写真が!
今は寝たきりでお話ができない患者さんですが、ラウンド時は、魚ネタを交えながら声かけしてます。笑
入院前の生活を知る!って大事ですよねー。
ちゃー様
いいですね~☺️素敵。
そんな病棟がひろまるといいですね!!