急性期病院における身体拘束〜その安心は誰のため?〜

高齢者ケア

今回はテーマとして取り上げるのにとても勇気がいりました。

すごくセンシティブなテーマだからです。

でもどうしても避けては通れない重要なテーマだと思うので、いろいろな意見があることを承知の上で、私の私見と勉強したことについて共有させてください。

この投稿を読んで、みんなが一歩立ち止まり、考えるきっかけになるといいなと思います。

身体拘束とは何か?

簡単に言うと、「患者の身体を拘束し、動けないようにすること」です。

定義としては以下のような文言になります。

身体拘束とは、「衣類又は綿入り帯等を使用して、一時的に該当患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限をいう」

昭和63年4月8日 厚生省告示 第129号における身体拘束の定義

身体拘束の禁止となる行為についても厚生労働省により明文化されています。

全部で11項目あるので、ここでの引用はしませんが、興味ある方は検索してみてください。

注意すべき点は、「転倒予防として使用されている離床センサー(マット)も、行動の制限や抑制を目的とする場合は身体拘束とみなされる」ということです。

また、広義の身体拘束として、以下の3つの分類もあります。

  • フィジカルロック(身体的拘束)
  • ドラッグロック(薬物による拘束)
  • スピーチロック(言葉による拘束)

私も過去に経験がありますが、「眠らないでモサモサしているから眠剤をあげよう」というのはいわゆるドラッグロックです。

あとは何気なく私たちが使いがちな「ちょっと待ってて」という言葉かけ。これも状況によってはスピーチロックとも言えます。

「眠剤を飲ませる」「少し待ってもらう」ことが悪いということではありません。

問題はそれを実行する前に相手の状況をきちんとアセスメントしたか?ということが重要なんだろうと思います。

身体拘束の実態

実際の現場では、どの程度身体拘束が行われているのでしょうか。

2016年の調査では、身体拘束を実施している病院(11項目のうち1項目でも実施している場合)は以下の通りです。

一般病棟(7:1/10:1看護)  93.1%

一般病棟(13:1/15:1看護) 94.7%

地域包括ケア病棟等     98.6%

回復期リハビリテーション病棟 91.5%

全日本病院協会:「身体拘束ゼロの実践に伴う課題に関する調査研究事業」報告書,平成28(2016)年3月

この結果には、私は正直なところ「そうだよねえー」と納得しました。

もちろんそうであってはいけないのですが。。。

私がこれまで働いてきた病院でも、身体拘束は日常的に行われていました。

だから、私はこの結果に納得したんだと思います。仕方ない・・・という気持ちがどこかにあるのかもしれません。

しかし、みなさん、急性期病院で身体拘束をゼロにした「金沢大学附属病院」を知っていますか?

最近書籍も出版されていますが、この本の中に以下のような文章がありました。

病棟の発表で、患者に寄り添うことでセンサーマットや監視カメラをなくすことができたということを知って、新人の自分は抑制しないのが普通なのだと思っていたが、それは先輩や師長さんたちの努力によって実現したことなのだと知った。

小藤幹恵編,急性期病院で実現した身体抑制のない看護,p23,表2-1-6「チャレンジ報告会後のアンケートの自由記載欄に寄せられた意見」,日本看護協会出版会,2018.

「抑制しないのが当たり前」という文化が根付いている、急性期病院があるんです。

この本には具体的にどう取り組んでいったのかも書かれていますので、ぜひ読んでみてください。

特に、管理者の方に読んでほしいなと思います。

身体拘束は安全どころか死を早める?!

「転倒予防のため身体拘束を開始した」

よく見受けられる看護記録です。インシデント報告書などにも、今後の対策として「拘束をきちんとする」ということが書かれてあるのを見かけたことがあります。

しかし、少し立ち止まって考えてみてください。その拘束、誰のための安心・安全なのでしょうか・・・。

身体拘束は、尊厳の喪失やQOLの低下だけではなく、心身機能が低下して廃用症候群が悪化し、寝たきりになったりします。その結果、死を早めることにつながります。

身体拘束が引き起こす弊害の中で、最も悪循環を与えていると私が感じるのは、「せん妄の発症」です。

入院初日の夜に落ち着かないという理由で拘束がなされたり、治療のためライン類が挿入され、抜去予防に拘束をされる。そのことによってせん妄を発症する高齢者は多くいます。認知症だからと相談を受けて関わってみたら、実は認知症ではなくせん妄だったというケースもあります。

拘束の実施によって、せん妄を発症したり、認知症高齢者の場合はBPSD(行動・心理症状)が出てしまうと、ケアをするスタッフにも負担が大きくのしかかります。そもそも抑制を行うこと自体、スタッフはジレンマを抱えるのでストレスですよね。

よく考えると、ストレスを抱えながら抑制を実施し、その結果患者さんは余計に状態が悪化してしまい、さらにスタッフの負担も大きくなる・・・とまさに悪循環です。誰にとってもプラスになることはありません。

入院初日の関わりが最も大事

では、拘束をしないために私たちに今からでもできることはなんでしょうか?

それは「先回りのケア」です。

特に入院してきて最初の夜は、患者さんにとって一番不安が高まる時期です。このときに安心感を与える関わりをするのです。

「先回りのケア」とは、患者さんより先にこちらから声をかけるのです。

ナースコールが鳴ってから行くのではなく、鳴る前に「痛みはないですか?」「夜は眠れそうですか?」「私が朝までいますので、何かあれば声をかけてくださいね」という声かけを先にしておくのです。

それだけで、患者さんは安心します。

私はよく夜勤のときには、消灯前に必ず一人一人の顔を見て、「今から消灯しますね、おやすみなさい」と言ってから消灯していました。当たり前かもしれないですが、すごく大事な声かけだと思います。

日常生活でも、必ず「おやすみなさい」といいますよね。それを病院でも継続する。そんな当たり前がとても大事です。

また、排泄介助でも先回りのケアが有効です。

忙しいときに患者さんから「トイレ」と言われて困った経験ありませんか?

それならば、こちらから前もって声をかけるんです。「お手洗い大丈夫ですか?」と。そうすれば、患者さんも「私のことちゃんと気にかけてくれてる」と安心しますし、私たちも落ちついてケアができますよね。

「先回りのケア」、是非試してみてください!

最後に、身体拘束の問題はスタッフ一人一人が考え、実行することはもちろん大事です。でも、私は正直それは限界があると思っています。

なぜなら、みんな、拘束しなかったことで「患者さんに何かあったらどうしよう?」と不安だからです。

(実際は抑制することのデメリットが大きいし、拘束により転倒のリスクが高まっていることもあるのですが・・・)

本人、家族から訴えられるんじゃないか、安全管理者から何か言われるんじゃないか、上司に責められるんじゃないかと。

だから身体拘束の問題は、組織のトップが方向性として身体拘束ゼロを掲げ、組織一丸となって取り組むことだと思います。

何かあっても個人を責めることはしないとトップが保証してあげることが大切だと思います。

私も、自分の立ち位置からできることをこれからも考えていきたいと思います。

ではまた明日♡

身体拘束に関するオススメ本↓

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