過去に第一弾として、認知症の人とその家族を理解するためのオススメ本をご紹介しました→こちら
今回は第二弾ですが、家族の理解についてはあまり触れられていないので、タイトルから「家族」という文言は省いています。
今回も認知症を深く理解し、周りがどのように関わるといいのかたくさんヒントを与えてくれる本となっています。是非最後まで読んでくださると嬉しいです。
「痴呆老人」は何を見ているか(大井玄著)
認知症の人とどのようにコミュニケーションをとればいいのか?そのヒントをくれた1冊です。
10年前に購入しましたが、初心にかえりたい時に何度も読み直しています。
認知症の行動・心理症状は環境が作り出しているという視点で、認知症の人がどうすれば穏やかに暮らせるのかということが学べます。
中でも印象に残った点は「情動に働きかける」ということです。
認知症の人と会話をしていると、時々「あれ?話が繋がらないぞ」と思ったことがありませんか?そんなとき、無理に話を合わせようとするというよりは、その人の感情に注目するのです。相手の感情に合わせて反応することが大事なことです。
もう一つ、大事なことは「笑顔」です。笑顔の大切さは以前私もお話しました(過去記事)が、笑顔って本当に効果絶大です。
例えば、言葉が通じない外国人でも、笑顔を見せれば相手も笑顔になりますよね。人は笑顔を見せられると笑顔を返したくなるものです。そして研究でも笑顔を作ることによってポジティブな情動が誘起されるということが明らかになっています。
ぜひ、コミュニケーションが難しいと感じているのなら、まずは笑顔で関わることを実践してみてください。
痴呆状態にある人と「心を通わす」とは、記憶、見当識などの認知能力の低下によって彼らに生ずる「不安を中核とした情動」を推察し、それをなだめ心穏やかな、できれば楽しい気分を共有することです。
大井玄,「痴呆老人」は何を見ているか,p68,新潮新書,2011.
認知症の人の心の中はどうなっているのか?(佐藤眞一著)
この本は、認知症の人が抱えている苦しみを理解するのに役立つ1冊となりました。
著者は認知症の人が抱える苦しみを4つあげ、その具体例について述べています。
4つの苦しみとは以下の通りです。
- 自分が自分でなくなっていく苦しみ
- 日常生活ができなくなる苦しみ
- 「未来展望=希望」を失う苦しみ
- 自分だけが別の世界に生きる苦しみ
これらの苦しみを少しでも軽くするためにどうしたらいいのかについても本書で具体的に述べられています。
私たちはこのような苦しみを理解した上で、介護者主体ではなく、認知症の人本人の視点に立ったケアを行うことが求められています。
何か問題が起こると、介護者はどうしても「困っているのはこちら」であり、「問題は相手にある」と思ってしまいがちです。しかし、介護される人にしてみれば、それは逆。困っているのは介護される人であり、問題は介護者にあるのです。
佐藤眞一,認知症の人の心の中はどうなっているのか?,p266,光文社新書,2019.
認知症をつくっているのは誰なのか(村瀬孝生・東田勉著)
この本は強烈なタイトルに目が止まり、購入しました。
この本は介護ライターとして様々な介護現場を取材してきた東田勉さんと、福岡県にある宅老所「よりあい」の代表をつとめている村瀬孝生さんの対談方式で書かれています。
お二人とも「認知症は病気ではない」「薬を飲まないことが認知症ケアの第一歩だ」という立ち位置です。
タイトルの通り、認知症は以下の要因によってつくられたものであるということが詳細に話されています。
- 介護保険制度と言葉狩り
- あらゆる形の入院
- 厚生労働省のキャンペーン
- 医学会と製薬会社
- 介護を知らない介護現場
- 老人に自己決定させない家族
なかなかすごいことを語っています。。。
立ち位置によって、考え方は様々だとは思いますが、お二人が語っていることには頷けます。
常識だと思っていたことを疑ってみるという視点の大切さを学ぶことができました。
人は老いると身体的な機能が衰えます。それと同時に、個人差はありますが時間と空間もズレていくのです。介護をするということはそうしたトータルな機能の衰えにつき合うということですから、時間や空間のズレをことさら病気だと考える必要はないと思います。(村瀬)
村瀬孝生,東田勉,認知症を作っているのは誰なのか,p31,SB新書,2016.
認知症そのままでいい(上田諭著)
この本の著者は、認知症を専門とする精神科医で「認知症は特別な病気ではない」という立ち位置で書かれています。
認知症は予防できない、治らない。だから「よくしよう」という発想は無用だと述べています。
現代の医学では、認知症には根治療法がないこと、確実な予防法もないことを断言しています。
以前紹介した小説「老乱」にも、必死に認知症をよくしようとすればするほど本人は混乱してしまうという悪循環が描かれていました。「よくしたい」と思うより、「今の状態を受け入れる」ことからケアが始まるのでしょうね。
また、本書の中では、認知症による以下のような行動心理症状(BPSD)についても詳しく書かれています。
- 一日中の物探し
- 物盗られ妄想
- 近しい人を間違える
- あてもなく歩き回る徘徊
病棟でもよく見られる行動だと思いますが、その行動をどう読み解いたらいいのかについて具体的に書かれています。
行動心理症状(BPSD)は認知症になったからといって必ず出てくる症状ではありません。多くは環境によって引き起こされている症状です。是非、この本を読んで学びを深めてほしいなと思います。
約40年前、全国の調査で、ある地域だけが認知症(当時は「痴呆」)が少ないことが注目された。島根県の隠岐の島である。何か秘密があるのかと原因を調べたら、他の地域で「痴呆」だといって問題にしている行動を、島の人たちは高齢者の当然の振る舞いだと受け止め問題視していなかったことがわかった。そのために、痴呆の数として統計にあがってこなかったのだ。
上田諭,認知症そのままでいい,p18,ちくま新書,2021.
以上4冊を紹介しました。全て新書となっていますので、読みやすいと思います。
一つでも気になる本があれば幸いです。
ではまた明日♡
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