今回は認知症高齢者とのコミュニケーションのポイントについてお話します。
私は急性期病院で勤務していますが(詳細は過去記事→自己紹介)
介入する患者さんは大体が認知症高齢者です。
そして介入のタイミングはほとんどが落ち着かない状況の時です。
そんな時でも介入の仕方を工夫することで落ち着くことがほとんどです。
ポイントをお伝えした後に、具体的な事例も紹介します。
本人に近づく前に聞こえるように笑顔で声をかける
一番重要なのは最初の関わり方です。相手に安心感を与えるためのポイントをお伝えします。
- 相手が見える範囲に立ち、笑顔で「○○さん、おはようございます」などと声をかける。
- 相手が目をしっかり合わせてきたことを確認したら少し近づく。
- 「初めまして。私は○○です。」と自己紹介をする。
- 相手の反応を見ながら、さらに距離を縮めていく。
- 可能なら相手の手に触れ、拒否がなければ両手で相手の手を包む。握手でもOK。
特に、相手が興奮している時には、いきなり近づきすぎないことが重要です。
必ずしもお伝えした通りじゃなくても、「相手に安心感を持ってもらうためにはどうしたらいいか」ということを意識した関わりをするといいと思います。
忘れてはいけないことは、笑顔です。今はマスクを必ず着用していると思うので、口元は相手に見えませんが、笑顔を作ることで目元が柔らかい印象になります。不安を取り除く一番の特効薬は笑顔だと私は思います。
タッチングを続けながら相手の話を聴く
次に、患者さんの手を包み込む、背中をさするなどしながら、何が起こっているのか耳を傾けてみてください。
- 「どうしましたか?」「何があったのかよかったら聴かせてもらえますか?」などと声をかける。
- 相手が話し始めたら、途中で口を挟まず最後まで聴く。
- 「そうだったんですね」「それは不安でしたね」など相手の不安な気持ちに寄り添う言葉をかける。
- こちらの対応が相手を不安にさせたことを謝罪することも時には必要。
ポイントは相手が話している内容が事実と異なっていても「それは違いますよ」などと途中で口を挟んで否定したりしないことです。
事実は違っても、相手の解釈(感じ方)がそうだったことに変わりはありません。
あくまで相手の世界に寄り添う気持ちが重要です。
そして、私たちが行った行為について間違っていたという意味ではなく、こちらが行った行為によって不安にさせてしまったということについて謝罪をすることも場合によっては必要となります。
静かな場所へ移動して1対1で話を聴く
最後に、相手がとても興奮している場合のポイントをお伝えします。
患者さんが興奮し始めるとスタッフにも危険が及ぶことがあるため、どうしても複数のスタッフで患者さんを取り囲むというパターンになるかと思います。
しかし、そうすることがかえって相手の不安な気持ちを増長させ、余計に興奮させてしまうことがあります。
できれば1人が声をかけ、心配であれば残りの人は少し離れた場所で見守るようにした方がいいと思います。
そして、できる限り病棟内でも静かな場所へ移動して話を聴くと少しずつ落ち着いてきます。
移動する際は声かけも忘れないようにしてくださいね。
事例紹介
では事例紹介です。
Aさん、70代男性。前頭側頭型認知症の方です。
入院初日の夜、本人が落ち着かないため抑制を実施したとのことでした。
2日目の朝、病棟から介入依頼がありました。Aさんが退院すると言って興奮しているとのことでした。
病棟に行くと、ナースステーションでAさんは車椅子に座っており、その周りを男性スタッフ2人が取り囲んでいる状態でした。Aさんは大声で「早く帰してくれ。それか警察を呼べ!」と言っています。
私はAさんが見える位置へ行き、少し離れたところから「Aさん。おはようございます。」と声をかけました。
するとAさんは私を見て「警察を呼んでくれるか」と言ってきました。私はさらに近づき、Aさんに自己紹介をしたあと、Aさんの手に軽く触れ、「その前に、私にも何があったのかお話してもらえませんか?」と声をかけました。
Aさんは昨日の晩、抑制されたこと、これは人権問題だから警察を呼ばないといけないと話してくれました。
私は他の男性スタッフ2人へ席を外してもらうよう伝え、Aさんに「ここではなんですから、もう少し静かな場所で詳しく教えてもらえますか?」と言って廊下の奥へ移動しました。
そこで一通り話しを聞いたあと、「入院してきて最初の夜にとても怖い思いをさせてしまいましたね。本当にすみませんでした。」と伝えました。
するとAさんは「いや、そんなに謝らなくてもいいんだ。」と言い、落ち着きを取り戻しました。
しばらく沈黙もありましたが、その間はあえて話をせず、ただただ側に寄り添いました。
きっとAさんも自分の中で気持ちの整理をしていたのだと思います。
その後は、Aさんはスタッフの働いている姿を見て「みんな一生懸命頑張っているね」などと穏やかに話をされました。そして、退院するまでAさんは落ち着いて過ごすことができました。
急性期病院では特に、認知症高齢者=抑制が必要な人という考えがあるように思います。
このような現状に警告を鳴らすため「認知症ケア加算」も誕生しています。
現場の忙しさは痛いほど私もわかります。抑制する側もジレンマを感じていると思います。
しかし、できる限り抑制の代替案を考える努力を私たちはし続けることが必要だと思います。
まずは、基本的なコミュニケーションを見直してみることから始めてみるといいかなと思います。
忙しさのあまりついつい表情にゆとりがなくなっているのかもしれません。
ついつい言葉が強くなってしまっているのかもしれません。
特に入院初日は、意識して今日お話したコミュニケーションのポイントを実践してみてください。
そうすることで、認知症高齢者は穏やかに過ごすことができ、結果的には私たちスタッフのゆとりにつながります。
ではまた明日♡
コメント
最後の事例を読んで、なぜか涙が出てきた。
あなたがAさんの話を聞いてくれてよかった。
コメントありがとうございます^^
ゆっくり話を聞けば、すごく素敵な人柄が現れてきます。